はじめに
家は癒しの場です。そこには、安全で安心な暮らしの基盤があります。たとえ、学校で嫌な事があっても、仕事で疲れたとしても家に戻れば、心身ともに回復することができる。それが住まいのあるべき理想です。
新築住宅を建てたり、リフォームすることは、これまでより快適に暮らせるようになりたいとだれもが願います。ただ、現実問題として、そうならないケースがあります。その代表的な事例が健康の問題です。新しい家に住み始めたのに、どうも体の調子がおかしい。これまでなかったアレルギーがでるようになったとか。これはシックハウス症候群と化学物質過敏症が主な原因にあります。住まいが人間の基本的な営みである衣食住と密接に関わっているがために、病気も伴ってついてきてしまいます。住まいと病気は切っても切り離せません。ただ、住まいについて誤った知識と無知によって生じる健康障害を未然に予防したいものです。あらかじめ建築医学ともいうべき知識をできる範囲でお伝えしていきます。
まず、今回は、化学物質過敏症についてお話しします。
化学物質過敏症とは
さまざまな種類の微量化学物質に反応して苦しむ病気を化学物質過敏症(Chemical Sensitivity=CS)と言います。
人間はこれまで26,000,000種以上の化学物質を開発し、水や空気、土壌汚染してきました。その上毎年、数千種類の化学物質が新たに開発されています。私たちの生活環境にも、生体組織に悪影響を与える様々な有害化学物質があふれ、生活環境や産業で使用される化学物質は約70,000種を超えています。殺虫剤やガーデニング用の除草剤、洗濯用の合成洗剤、ワックス、タバコ、衣類用防虫剤、消臭剤など、数え上げたらきりがありません。食べ物は残留農薬や食品添加物(着色料、香料など)で汚染され、水には環境ホルモンや塩素が混入し、空気には排気ガスから発生する一酸化炭素や窒素酸化物が含まれます。しかも私たちは、これらの科学的ストレスだけでなく、パソコンや携帯電話から発生する電磁波などの物理的ストレスや、職場や学校で受ける精神的ストレス、ウィルスや花粉などの生物的ストレスにさらされているのです。体には、ストレスを受けてもそのダメージを修復して正常な活動を維持しようとするホメオスタシス(生体恒常性維持機能)があります。ホメオスタシスは、免疫系、自律神経系、内分泌系と言う3つの柱から構成されていますが、何度もダメージを受けると、これらの機能も次第に弱って、やがて十分に働かなくなります。化学物質を始め、複合的なストレス汚染にさらされ続けた結果、ストレスの送料が許容量を超えてしまうと、微量の化学物質に反応するようになると考えられています。重症になると、仕事や家事が出来ない、学校へ行けないなど、通常の生活さえ営めなくなる、極めて深刻な環境病です。
増加する化学物質
化学物質過敏症は、何かの化学物質に大量に曝露されたり、または、微量だけれども繰り返し曝露された後に、発症するとされています。化学物質への感受性は個人差が大きいため、同じ環境にいても発症する人としない人がいます。
「わが国において工業用途として届け出られるものだけでも毎年300物質程度の新たな化学物質が市場に投入されています。化学物質の開発・普及は20世紀に入って急速に進んだものであることから、人類や生態系にとって、それらの化学物質に長期間暴露されるという状況は、歴史上、初めて生じているものです」(2003年版『環境白書』より)。
その一方で、「今日、市場に出回っている化学物質のなかで、量として75%に当たるものについて、基本的な毒性テストの結果すら公開されていない」(米国NGOの環境防衛基金1997)といった現状があります。
「便利な生活」のために、化学物質を開発、利用していくことが優先され、安全性の検証は後回しにされがちです。こうした背景のもと、「環境ホルモン」「化学物質過敏症」など、従来予想できなかった新たな問題が表面化してきたのです。
潜在患者が多い現状
化学物質過敏症の発症者数について、京都大学大学院教授らは、成人を対象に行った調査から全国で約70万人と推計しています。子どもも含めれば100万人程度になりそうです。
しかし、多数の医師はこの病気に関心を持っておらず、診療できる医師は限られています。このため、「更年期障害」「精神疾患」など、別の疾患として診断されたり、「原因不明」として放置されている潜在患者が多数いるものとみられています。 実際、明らかな体調不良にもかかわらず、医師らに「異常なし」「気のせい」などと言われ続け、「CS」と診断されるまで、医療機関を何カ所も渡り歩いた経験を持つ方は、少なくありません。
このため、「お医者様が『異常なし』とおっしゃっているのだから」と、家族からも理解してもらえない発症者が少なくありません。発症者は症状だけでなく、孤独にも苦しめられているのです。
発症者の反応を引き起こす主な化学物質など
▼発症者の90%以上に症状が出るもの
・家庭用殺虫
・殺菌
・防虫剤類
▼発症者の80%以上に症状が出るもの
・香水などの化粧関連用品類
・衣料用洗剤類
・防臭
・消臭
・芳香剤類
・タバコの煙
・シャンプーなどボディーケア用品類
・灯油などの燃料類
・ペンなど筆記用具類
・印刷物類
ほか、発症者が反応するもの
新建材・塗料から放散される化学物質、排気ガス、電磁波、においが強い天然のものなど
(個人差あり)
室内空気汚染
人はそのほとんどを室内空間で過ごします。飲食物は1日2キログラム前後の摂取であります
が、空気は20キログラム前後摂取します。しかも飲食物は肝臓と言う解毒の関門を通過しますが、空気汚染化学物質は体内へ直行します。そこに空気汚染物質の怖さがあります。従来の建築と現代と建築の違いから、室内空気が汚染する原因として、新建築材からの群発性化学物質、建物の高気密性、大気汚染等が挙げられます。
化学物質過敏症(CS)の発症原因の半数以上が、この室内空気汚染です。室内空気汚染による健康影響は、「シックビル症候群」「シックハウス症候群」とも呼ばれています。自宅や職場、学校などの新築、改修、改装で使われる建材、塗料、接着剤から放散される、ホルムアルデヒド、揮発性有機化合物(VOC)などが、室内空気を汚染するのです。建築物自体だけでなく、室内で使われる家具、殺虫剤、防虫剤や、喫煙なども室内汚染を引き起こし、CSの発症原因になります。室内、屋外を問わず盛んに使われている有機リン系農薬(殺虫剤)は、さまざまな毒性(神経作用、アレルギー悪化、視力低下など)が指摘されています。また、特に問題なのが、有人・無人ヘリコプターによる空中散布です。ガス化した農薬が、対象の田畑や森林だけでなく、周辺の住宅地などにも長期間留まり、有機リン中毒やCSなど、深刻な健康被害をもたらしています。さらに、農産物生産以外の目的で使われる農薬(シロアリ防除剤、庭・公園・街路樹の殺虫剤など)には、ごく一部を除いて規制がなく、発症原因となったり、発症者を苦しめています。
化学物質過敏症の原因
シックハウス 59%
農薬・殺虫剤 21%
有機溶剤 8%
その他 12%
患者221名(女性164名、男性57名)。6~62歳(平均42歳)。
北里研究所病院臨床環境医学センターによる
化学物質過敏症の主な症状
【目】かすみ/視力低下/物が二つに見える/目の前に光が走るように感じる/まぶしい/ちかちかする/乾き/涙が出やすい/ごろごろする/かゆみ/疲れ/目の前が暗く感じる
【鼻】鼻水/鼻詰まり/かゆみ/乾き/鼻の奥が重い/後鼻腔に何か流れる感じがする/鼻血
【耳】耳鳴り/痛み/耳のかゆみ/音が聞こえにくい/音に敏感になった/耳の中がぼうっとする感じがする/耳たぶが赤くなる/中耳炎/めまい
【口やのど】乾き/よだれが出る/口の中がただれる/食べ物の味が分かりにくい/金属のにおいがする/のどの痛み/のどが詰まる/ものが飲み込みにくい/声がかすれる/喉頭に浮腫ができる
【消化器】下痢や便秘/むかむかして吐き気がする/おなかが張る/おなかの圧迫感/おなかの痛みや痙攣/空腹感/胸焼け/げっぷやおならがよく出る/胃酸の分泌過多/小腸炎や大腸炎
【腎臓・泌尿器】トイレが近くなる/尿がうまく出ない/尿意を感じにくくなる/夜尿症/膀胱炎/腎臓障害/インポテンツ/性的な衝動の低下や過剰
【呼吸器・循環器】せきやくしゃみ/呼吸がしにくい/呼吸が短くなったり呼吸回数が多くなる/胸の痛み/息遣いが荒くなる/喘息/脈が速くなる/不整脈/血圧が変動しやすい/皮下出血/寒さに対して皮膚の血管が過敏になる/血管炎/にきびのような吹き出物が出やすい/むくみ
【皮膚】湿疹、蕁麻疹、赤い斑点が出やすい/かゆみ/引っ掻き傷ができやすい/汗の量が多い/皮膚が赤くなったり青白くなったりしやすい/光の刺激に対して過敏になる
【筋肉・関節】筋肉痛/肩や首がこる/関節痛/関節が腫れる
【産婦人科関連】のぼせたり、顔がほてったりする/汗が異常に多くなる/手足の冷え/おりものが増える/陰部のかゆみや痛み/生理不順/不妊症/生理が始まる前にいらいらしたり、頭痛、むくみなどがある/感染症にかかりやすくなる
【精神・神経】頭が痛くなったり、重くなったりする/手足のふるえや痙攣/うつ状態や躁状態/不眠/気分が動揺したり不安になったり精神的に不安定になる/記憶力や思考力の低下/食欲低下/いらだちやすく怒りっぽくなる
【その他】貧血を起こしやすくなる/甲状腺機能障害
患者の苦痛
化学物質過敏症の特徴の一つに、アレルギーなどと比べても、はるかに少ない量の化学物質に反応することがあります。ホルムアルデヒドの室内空気濃度指針値は0.08ppmですが、それより低い濃度で反応する発症者の方もいます。
重症の方は、身の回りの多種類の微量化学物質に反応するため、起きている間じゅう、絶え間なく苦しみます(発症者によっては寝ている間でさえ、不眠や悪夢で苦しめられます)。着られる服がない、使える生活用品がない、食べられるものを探すのも一苦労(農薬や添加物が使われたものは食べられません)。そして何よりつらいのは、自分のこの体を安心して置ける場所がないことです。
化学物質過敏症とシックハウス症候群
シックハウス症候群は室内空気汚染を原因とする症状であると言う事は前述した通りですが、その建物に住み続けることによってアレルギー疾患が生じたり、化学物質過敏性になることから、アレルギー疾患、化学物質過敏症とシックハウス症候群の3者の発症や症状は重複するところが多いといえます。
かつて「シックハウス症候群」が多発して社会問題化したことから、厚生労働省は、室内空気の化学物質濃度に指針値を設けました。国立病院機構の一部の病院では、シックハウス症候群を診断できる態勢が整備されつつあります。2003年7月には改正建築基準法が施行され、カルテや診療報酬明細書(レセプト)に記載するための病名リストに、2009年10月1日から化学物質過敏症を登録しました。
このことによって、これまで「シックハウス症候群」「自律神経失調症」「うつ病」など、他の病名で治療を受けたり、申請をせざるを得なかった障害年金においても、「化学物質過敏症」という正しい病名による認定が増加し、わずかではありますが生活保障されるケースが報告されています。しかしながら、 根本的な脱化学物質、脱電磁波など、目に見えない環境汚染物質の発生や使用に対する幅広い規制、対策は、ほぼ無策と言っても過言ではありません。
また、厚生労働省は、シックハウス症候群など体調不良を引き起こすおそれのある化学物質についてを、新たに追加しました。新たに指針値が設定されるのは、水性塗料の溶剤に使われている「テキサノール」や、接着剤や塗料に含まれる「2-エチル-1-ヘキサノール」など。テキサノールは、既に指針値のあるフタル酸エステル類の代わりに広く使われています。2-エチル-1-ヘキサノールはオフィスなどのビニール製の床材から放散され、問題になることが多いとされます。
新過敏症 香水、柔軟剤のニオイ
最近、新たに発症してある過敏症があります。公害になぞらえて「香害」。香水などの香りが「不快」を超え、健康被害を訴える声が増えています。具体的には、衣類の柔軟剤や香水、香りが強い商品です。洗濯物の香りで息ができない、吐き気がする、体臭対策で香水をつけたはいいが、香りが強すぎると周囲に不快感を与えていますが、当の本人は“良い香り”だと思っているから指摘するのも難しい。柔軟剤のテレビCMなどでも、花の香りを振りまくことで、周りの人たちが笑顔になるような演出をしているため、その香りが不快感を与えているとは想像しにくいのかもしれません。それが香りの好みではなく、健康に関わる問題となっています。
芳香性がブームになったこともあり、柔軟剤は本来、生地の質感を柔らかく保つための仕上
げ剤。国民生活センターによると、以前は微香タイプが主流でした。ところが、10年ほど前に香りの強い海外製品がブームになったのをきっかけに、芳香性を強調した製品が増加。その頃から、柔軟剤による体の不調を訴える人が増え、過敏症の人たちが悲鳴をあげています。各メーカーは、対策としてテレビCMなどで「香りの感じ方には個人差があります。周囲の方にもご配慮のうえお使いください」などと表示。製品やホームページに、香りの強さを表記されています。
子どもが危ない 子どもと化学物質過敏症
「シックスクール」という言葉が聞かれるようになりました。子どもにとって安全であるべき学校の環境が原因で、子どもや教職員が化学物質過敏症などを発症したり、または、すでに化学物質過敏症やアトピー、アレルギーになっている子どもや教職員の症状が悪化するケースです。
化学物質過敏症を発症している子どもや教職員の多くは、床に塗るワックスや教材から揮発する化学物質、教職員のたばこや香水、校庭の樹木へ散布される殺虫剤などに反応して、症状が出てしまいます。
また、校舎の新築や改修による集団的な健康被害の発生例も報道されています。
学校側が協力して、教室の換気を励行したり、教職員がたばこや化粧を控えるなどの対応を取れば、化学物質過敏症の子どもでも通学できる場合があります。しかし、化学物質の問題について知識がない関係者がまだ多いため、子どもや親からの訴えがなかなか理解されないケースも目立ちます。
また、学校側が協力しても学校に通えないほどの重症の子どもの場合は、養護学校からの訪問教育などで対応するよう、文部科学省は指導しています。しかし、「人員が足りない」などの理由で、実施されないこともあります。
シックスクールは、一部の「過敏な子」だけの問題ではありません。化学物質過敏症の典型的な症状の一つに、集中力・思考力が欠けて落ち着きがなくなる、感情を制御しづらくなり怒りやすくなる、というものがあります。化学物質に曝露されると「キレる」子どもが(大人も)現実にいます。一見すると元気で活発な子どもが、実は病気のせいで“多動”になっていた、という例も報告されています。
今日、落ち着きのない子ども、感情を制御できない子どもが、いかに多いかということは、皆さんもご承知の通りです。
親も教職員も、そして子ども本人も気付かないうちに、化学物質の影響を受け、「多動児」「問題児」扱いされている子どもたちも、きっといるのではないかと思われます。化学物質過敏症の子どもたちが通えるような学校にすることは、他のすべての子どもたちの健康を守ることにもなるのです。
「健常者」も危険
化学物質過敏症を発症していない人が、化学物質過敏症を発症しないために、化学物質にできるだけ曝露されないよう、より安全な生活習慣を心がけるようにしてください。化学物質過敏症は多くの場合、特別なものによって発症するのではありません。「危険」だとして禁止される化学物質は、禁止される直前まで普通に使用されているのです。あまり神経質になる必要はありませんが、化学物質の安全性・危険性については完全には解明されていないこと、また、単一の化学物質は安全でも、身の回りには数百種類かそれ以上の化学物質が常に存在し、その複合影響があり得ることにご留意ください。
【具体的な予防策】
・室内空気を汚さない(換気の励行。噴霧式・スプレー式殺虫剤、芳香剤、消臭剤は使用しない。蚊取り線香は使用しないか短時間に限って使用。衣類防虫剤は使用しないか密閉容器中で使用。あらゆるスプレー類は使用しないか戸外で使用)
・食品は安さだけでなく安全性にも注意を
・合成洗剤はやめて石けんに
・住宅の新築・改修・改装は特に注意
・「あれば便利」程度で、なくても良いものは使わない
・家庭だけでなく、職場、学校・幼稚園などでも同様に
・適度な運動で汗をかいて
まとめ
昨今、環境問題がさかんに問われています。
プラスチック製袋の削減や省エネ法改正、脱炭素社会など次々に施策が行われてきています。私たち人間は、利便性を求めてすぎて、その代償として、温暖化や気象の激甚化が起こり、人間の本来もつ生命力が弱ってきているように思います。そしてコロナウィルス。これ以上、暴走していけないという自然からの警告なのかもしれません。そんな時代に、私たちは生き延びてゆかなければなりなません。人間が作り出した化学物質に苦しめられている人たちを理解し、そしてこれから苦しめられるかもしれないという現実を踏まえて、今後、高度に発達した便利な暮らしのなかで、ある時、ふいに自身の健康が損なうリスクが生じることを十分に考慮しつつ、社会を歩んでいくことになることでしょう。
統計データ及び事例、さらに発症者の相談、支援については、弊社も正会員である化学物質過敏症支援センターのHPをご参照ください。
千癒の家(株)わいけい住宅代表の中山です。 家は人生で一番長く家族といる空間です。
ご家庭の暮らしがあり、そして上質でより豊かな『暮らしを楽しむ』家には本物の住宅環境がなくてはなりません。個性ある暮らし方にマッチした健康快適環境設計をすることでご家族皆様が『暮らしを楽しみ実用的な快適な』家が実現するのです。プロの設計と匠の技で、手間ひまを惜しまずお客さまにお届けします。
新潟で健康住宅No,1になるために、日々勉強しお客様に還元できるように努力しています。